「鷹逸郎さま…!」

バタン、と扉の開く音と共に聞こえる懐かしい声。
ゆっくり開いた、と思った扉だったのに、
音がする位だから、勢いがあったのかもしれない。

そんな事をぼんやりと考えていた。

「…しの…っ…しのぐ……っ。」

頭はぼんやりとしているのに、凌を見た瞬間に、
溢れる、暖かい雫。

びっくりして、目を擦る。
そして、拭うが、また直ぐに溢れてきて
拭っても拭っても拭いきれないくらいの涙が
俺の頬を濡らした。


いきなり泣くなんて、恥ずかしい。
凌も困ってるんじゃないか?
いきなり泣き出してわけがわからないよね?

早く、止まってよ涙。

呼んでない。悲しくない。辛くない。苦しくない。

だから、早く!


そう、思った瞬間


ふわっと、優しい匂いがした。
懐かしくて、暖かくて、柔らかかった。

「……ごめんなさい…、ごめんなさい…。」
「…っ…しの…ぐ…?」

目の前に凌が居る。
でも、抱きしめられたせいでその顔を確認する事は出来ない。

だけど、その懐かしさと、優しい匂いは
確かに凌のものだった。


呼吸をするのが苦しいのは、
涙が止まらないせいだけじゃないみたいだ。

涙で頬が濡れる。
抱きしめられて、体が濡れる。

あの日のように、外は雨が降っていた。