校門のところで凌が待っているのを見つけた。
思わず駆け出して飛びつきたくなったけど、色々考えてやめることにした。
俺は凌の事が大好きだけど、

凌は仕方なくやっていることなんだって、気付いてしまったから。

凌は、父の秘書の息子だった。
父は秘書とも家族ぐるみで仲が良く、よく夕食等のホームパーティーに招待している。

それと一緒にうちに遊びに来ていたのが佐木 凌だった。

歳は俺と6つ違い。凌が6つ年上だ。
俺が今年で15歳だから、凌は21になるのかな。大学3年生だ。
あまり詳しくは聞いたことないけれど、成績も優秀で、テストもほぼ満点。

流石、凌としか言いようがない。
俺が一番尊敬していて、一番カッコよくて、一番大好きな人だ。

そんな凌は、俺の幼馴染でもあったりする。

昔、凌が俺の事を赤ちゃんの時から知っている、と教えてくれた。
その時に、「鷹逸郎様が生まれてからずっと一緒に居るんですよ」、
と優しく微笑みかけてくれたのを今でもはっきりと覚えてる。
その時の顔が優しくて、嬉しくて、凄くカッコよかったから。

だから、凌なら俺の事を全部わかってくれる気がして、
ずっと一緒に居たい、なんてわがままを言って泣いた事もあった。
勿論、小学生の時の話しだけど。

でも、本当に寂しかったんだ。
夕食を一緒に食べたときも、ホームパーティの時も、
俺の周りにいるのはいつだって俺の様子を窺うだけの大人。
耐えられなくなりそうな程息が詰まって、呼吸も出来なくなりそうな時に、
俺の手を握ってくれたのは凌だった。

父親に助けは求められない。
父親がそういう仕事をしているのは知っているから。

母親は…居ない。

俺の手をちゃんと握り返してくれるのは凌だけだった。
どんなときも暖かくて、俺より一回り大きな手が俺を包み込んでくれる。
それだけで、俺は安心できた。今まで何があっても生きてこれた。

そのくらい、かけがえのない人だった。

だけど、その頃は凌も高校生で学校があったので、
「ごめんね…、絶対また遊びに来るから。」と
申し訳無さそうにして帰って行った。
俺は本当に寂しくて、凌が帰った後は毎晩泣いていた気がする。

そんな俺の様子を知っていたのかどうかはしらないけど、
俺が凌に懐いている事は良くわかっていたらしい父が、凌が大学に入った頃に、
バイト感覚で良いから俺の世話係の仕事をしないか、と持ちかけたらしい。

勿論、無理なことはせずに空いている日にだけ学校に迎えに行き、うちに遊びに来る、
という簡単なものだったが、以前より遊びに来る回数が
かなり増えた事が俺は何よりも嬉しかった。

…ただ、話し方が以前よりもまして丁寧になってしまったのが少しだけ嫌だったけど。
多分、凌なりに仕事だという事を踏まえてるからなのだろうけど。

そんな凌が最近、俺と会う時にとても疲れた顔や辛そうな顔をしていることに気付いた。
何か大変な事でもあるの?と聞いても、大丈夫です、と誤魔化されてしまう。

何か隠しているのだけは明白だった。ただそれが何かはわからない。

どうしてそう言い切れるのか、と言えば、俺だって凌が俺と一緒に居るのと同じ年月、
凌と一緒に居るから、そのくらいはわかる。

凌が何かを誤魔化したい時とか、嘘をついてるときは決まって嘘の笑顔で誤魔化すから。

そう思った時に思い当たるのが、俺とは仕方なく会ってる…、と言う事だった。

今まで散々ワガママも言ったし、困らせてきた。
ただ、凌が嫌だといわないから甘えていたけれど、
よく考えれば嫌われても仕方がないのかもしれない。
…他のみんなみたいに、お金持ちに合わせているだけ、なのかもしれない。

偶々、学校の帰りの車の中で、俺の知らない友達と歩いている凌の事を見たことがある。
その時の凌は、何の悩みも無さそうな楽しそうな笑顔を浮かべて、はしゃいでいた。

もし…、もし常に凌が何らかの悩みに囚われているのなら、
とてもそんな風には笑わないんじゃないだろうか。

…それほどに、俺の前にいる凌はどこか苦しそうだった。

だけど、俺にはその理由を教えてくれない。でも、
俺じゃない人と一緒に居るときは、とても楽しそうだった。

つまり、そういう事なんじゃないだろうか…と思ってしまった。
そして思考を巡らせるたびに自分の様々なワガママや失態、
失言に気付きその可能性が高まっていく。

俺は、「仕方なく俺と一緒に居てくれる凌」と一緒に居たいわけじゃなかった。
そんなのは、俺の周りに居る友達のフリをしている奴らと一緒だ。

俺が一緒に居たいのは、俺を見てくれる凌だ。
俺が凌と一緒に居て幸せになれるように、凌もそうであって欲しいと思っていた。