「……てかさー、いきなり大玉狙いじゃん?」
「大玉とかやめろよ、大事な商売道具なんだから。」
「ひでー!道具扱いかよ!!」
ぎゃはは、と笑う声がトイレに響いてくる。
「ま・俺が転校してきたのもその為の親父の策略だし、頑張ってるよ。」
「本当、弘人は親父さんの為ならなんでもやるんだな。」
「まぁね。」
弘…人?
ドクンっと、心臓が高鳴る。
まさか、あの弘人くんじゃないよね?違うよね?
気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ!
弘人なんてよくある名前だから。大丈夫、弘人くんじゃない。
「…で、なんて言ったっけ?大企業のご子息の名前。」
「天笠くんだよ。…天笠鷹逸郎。今仲良くしてて、損は無いからね。」
血の気がサーッと引いていくのを感じた。
頭もがんがんして、クラクラしてくる。
上手く呼吸も出来ない気がする。
唇が変に乾いて、冷や汗まで出てくる。
どうして?どうして?どうして?どうして…?
繰り返される疑問と、本当は知ってる答え。
涙が自然と溢れて来た。
さっきあんなに流したのに、これでもかと言うほど流れてくる。
遠くなっていく二人の知らない人の声。
もう誰も居ないし、何も聞こえないから、トイレに響くのは俺のすすり泣く声だけだった。
それからどうやって帰ったのかはあんまり覚えていないけれど、
お節介な人が家の人を呼んでくれて迎えが来たのだけは確かだった。
歩いて帰った記憶は無いから。
自室の鍵を閉めて、部屋の隅っこで一人でぼんやりとしている。
気付けば、お月様が部屋を照らしていたけれど
それが優しいものには思えなくて、慌ててカーテンを閉めた。
結局、俺には誰も居なかったんだ。
あんなに優しくしてくれた凌も、結局俺のコトは好きじゃなくなってしまった。
弘人くんは、違うと信じていたのに、やっぱりみんなと一緒だった。
俺は…何なんだろう。
誰にも、何も求めちゃいけない…?
俺はやっぱり、産まれてこなければよかったのかな。
涙がこみ上げてくる。
どうしたら、誰かが自分を見つめてくれるのか、俺にはわからなかった。
わからなくて、わからなくて、辛くて苦しくて、
だから、無理に考えない事にして、それから逃げていた。
だけど、それでも辛くて苦しいのは拭えない。
逃げているから、何かが変わることもなかった。
だけど、だけど、少しだけ、ほんの少しだけチャンスがめぐってきて、
頑張ってみよう、もしかしたら出来るかもしれない、なんて思ったら
そのままどん底まで落ちてしまった。
元々努力する気もなかったのに、諦めていたのに、
美味しい話があった瞬間、飛びついた自分がいけなかったのかもしれない。
人生そんなに甘くない。
だけど、俺…そんなに悪い事したかな?
誰も、俺を見てくれなくて、俺のコトが嫌いになるくらい、
俺って嫌なやつなのかな?
だから、凌も…居なくなっちゃったの?
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