だから、仕方なくなんて

…そんな、ただのお守りの為に一緒に居る凌とは居たくなかった。

迷惑をかけているだけなんて、…辛い。

俺が望んだのはそんなコトじゃないのに、いつからこんな事になってしまったんだろう。
…最初から、そうだったのかな?

昔、似たような事を考えたことがあった。

俺の周りは昔から、俺じゃなくて俺の先にある俺の父親を見ていたから。
俺は、「天笠鷹逸郎」じゃなくて、「天笠浩二朗の息子」だった。

俺がどんなに努力をしても、どんなに辛い目にあっても、
父親の機嫌を伺うためだけの、賛美と、心配。

今の友達のフリをしてる奴らも、俺が大企業の天笠グループの次期社長だからこそ、
付いて来る連中ばかり。だから俺の機嫌をいつも伺ってる。
…そうすることで、俺が彼らの目的に気付いて居ることも知らずに。

それと一緒で、凌もそう思っているのではないか…と考えたこともあった。
だけど、学校でそういう扱いを受けていると話したときに
凌は本当に怒っていた。そして、本気で心配してくれた。

「どんな事があっても、私が傍に居ます。」

そう言って抱き締めてくれたから、だから今まで頑張ってこれたのに。

あの言葉は嘘だったの?

…でも、それももう何年も前の話し。

数年経った今考えれば色んなパターンが思いつく。
あの時は、本当にそう思ってくれて居たけど、
色々大変で凌もそれどころじゃ無くなった…とか。

俺のコトをとりあえず慰めなきゃ、と思って言った、とか。
凌はそこまでのつもりで言ったわけじゃないのに、
俺が無駄に過剰反応して、それを心の支えにしてしまったとか。

俺の父親がどうのと言うより、凌の父親の事を考えて俺と仲良くしている、とか。

悪いほうの考えはいくらでも浮かんでくる。
だけど、それを直接凌に聞く勇気はなかった。

どこかで諦めてはいるけど、凌の辛い表情を見るのはやだけど、
だけど、凌に拒否されるのが一番怖かった。

最終的には自分の事しか考えられない自分が、嫌で嫌でたまらない。
だけど凌の事を一番に考えてあげられるほど強くなれなくて、


…そんな自分だからこそ凌に嫌われても仕方が無かったのかもしれない。


だから、俺は何にも触れずに凌を楽にしなくちゃいけない。
理由を聞いたら俺が傷つく。だけど、このまま行っても凌が辛いから。

今の俺に出来る、二人が先へ進むための最高の方法だった。

「おかえりなさい、鷹逸郎様。」
「……ただいま。」

凌が後部座席のドアを開けてくれた。
そのまま車に乗り込むと凌が運転席に座り車が動き出す。

くるくる景色が変わっていく。だけど、怖くはない。…そんな速さ。
凌の優しさがそのまま表れたかのような運転に、
少しだけ心が締め付けられるような痛みを感じる。

「……最近…さ、教室で話してくれる人が居てさ…。」
「そうなんですか…?良かった。ずっと、今までのようなままじゃ辛いですからね。」

ミラー越し見えた凌の疲れた顔が少しだけ笑顔になる。
…これは嘘の顔とは違った。

凌も昔に言った話しを覚えててくれたのだろう。
それでいて、心配もしていてくれた…?

どこまでが本当の言葉なのは俺にはわからない。
今の凌を見ていると、どこまで本気で取って良いのかもわからないから。

ただ1つ言えるのは、このままではいけない…と言う事。

「…だから、凌もあんまり無理して俺に会いにこなくて良いよ。」
「……っ…無理なんて、そんなこと…!」

一瞬だけ凌の表情が曇る。
やっぱり図星だったのだろう。戸惑いを隠せていない。

「無理しないで良いって。俺、そんなに凌と会いたくないから。」
「…………。」

暫くの沈黙。
自分で言った事なのに、自分が傷ついた。
まったくそんなコト思ってないのに。

いつも辛そうな凌が、より辛そうに見える。
今みたいな辛い表情の凌に会いたいわけじゃなかったのに。

全く会わないで凌が幸せなのと、俺に無理に会いに来て凌が辛いの。
どっちかを選ばなきゃいけないとしたら、
それは辛いけど凌の幸せを選ばなきゃいけない。

本当は、俺に会いに来て欲しい。
凌が居ない生活なんて何をして良いのかも分からないくらいだ。
なんで生きているのかも、わからなくなりそうだ。

…だけど、もうそんなワガママを言って凌の自由を奪ってはいけないんだ。

俺もあと数日で15歳。

もっともっと、相手の気持ちを考えて行動しなきゃいけない。

だからってあんなものの言い方をして良いのかって言われたら良くないけど…。
現に凌は少し傷ついたみたいで、辛そうな表情を浮かべている。

でも、凌は仕事で来ていて、きっと自分からは止められたりしないから、
俺が「もういい」って言わない限り、この疲れる仕事を止めたり出来ないから。

凌の辛そうな表情を見ていると、本当に最後の最後まで俺が振り回してしまったな、と思う。
だけど、コレで凌がこれ以上疲れることも苦しいことも無いなら、
きっと+−は0どころか+になってくれる筈だ。


凌は小さく「…わかりました。」と俺に告げて、
後は二人とも無言で家までの道のりを走った。