「凌、ごめん…ちょっと熱っぽいから帰らせて。」
「…っ、大丈夫ですか?鷹逸郎様…。」

心配そうな表情で見つめられれると、申し訳ない気持ちになる。
熱っぽいのは、確かなんだが、大半は精神的なものからだろう。

「大丈夫。…多分。」
「あちらの家で、また不健康な生活などされてるのでは無いですか?」
「そうでもないよ、大丈夫、生きてるから。」
「…何か、お手伝いにでも行きましょうか?」

「……、…。」

心配そうに見てくる相手に、苛立ちを覚えながら、ふ、と視線を反らす。

「ほっといてよ…。」
「……、すいません。」

「……凌は俺の事振ったんだから。もう恋人でも何でもないだろ?
そこまで俺のプライベートに立ち入らなくていいし、仕事に忠実でなくてもいいから。」

「そんなつもりは…っ。」
ふい、と凌に背を向け、そのまま店を後にする。


別に、こんなこと言いたかったわけじゃないのに。

それに、


……凌をしばりつけているのは他でもない俺だろ?




店を出ると、サユキさんが待っていた。
「夜深、帰るんでしょう?乗せて行くわ。」
「ん、…ありがと。」

小さくお礼を言いながら、サユキさんのベンツに乗り込む。
いつ乗っても乗り心地の良いそれを、俺は結構気に入っていた。


「今日は、何人もの女の子とキスしたそうじゃないの。」

良くやるわね、とふふっと笑うその顔は素直に綺麗だと思う。
サユキさんの素性は良く知らない。

でも、何を求めるわけでもなく、ただ俺と聖弥の事を気に入った、といって
たまにこうやって、送り迎えをしてくれたり、話をしたりしていた。

「……今日も疲れたよ。」
「気分悪いのに無理するからよ。」
小さく溜息つきながら、広いシートに凭れ掛かる。

信号で、車が止まった。

サユキさんに、唇を奪われる。

香水の良い匂いがした。



そのまま、首筋にキスをされ、甘噛みされる。
「…ん…っ。」

小さく声上げながらも、拒否するでもなく。
キスマークを付けられた。


「まったく、誰にそんな感じ安い体されたのかしらね?」
「……べ、別に良いだろ、誰でも。」

からかうような口調で、言われれば頬が赤くなってしまう。
ふいっとそっぽを向きながら悪態をつくと、また笑われた。

俺とサユキさんはいつもこんな感じだが、
聖弥とはどうなんだろう…聞いたことは無い。


「てか、明日凌に怒られるんだけど。」

首筋のキスマークを、サイドミラーで確認しながら文句を言うが、
サユキさんは、小さく笑うだけで返事はしてくれなかった。